お富さん

Otomi san(Madam Otomi)
Selected by taro

お富さん / 春日八郎

まずは音声のみ、お聞きください。

はじめての人には、意味不明だろう。

きっと、こんなふうに聞こえると思う。
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(いき)な黒兵衛…………………「くろべえ」という、粋な男の人がいるらしい

御輿(みこし)のまつに……………祭の「おみこし」か?

あだ名すがたのあらいがみ……あだ名? 姿? 髪を洗う?

死んだはずだよお富さん ………お富さんは、死んだはずである

生きていたとはお釈迦さまでも

知らぬ仏の お富さん …………まさか生きていたとは、お釈迦さまもびっくり仰天!?

エーサオー げんやだな ………かけ声だ。「げんやだな」って、なんだ?
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断片的にわかる言葉もあるものの、ほとんど意味不明である。
古文のテストを受けている心境になった人もいることだろう。

「お富さん」は1955年(昭和29年)にシングルレコードが発売され、100万枚を超える大ヒットになった。
当時の大人たちは、この曲をいいと思ったわけである。

同時に、子どもたちの間でも大人気になった。 「死んだはずだよ」といった子どもが面白がるような言葉が散りばめられた歌詞と軽快な曲調で、コミックソングのような受け取められ方をしたためである。

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「お富さん」は、歌舞伎の「与話情浮名横櫛」(よわなさけ うきなの よこぐし)を題材にした歌謡曲である。

やくざの妾(めかけ)のお富と恋仲になった与三郎は、子分たちに切られ木更津の海に投げ込まれる。追われたお富も海に身を投げる。

互いに死んだと思っていた与三郎とお富は、3年後に江戸で再会する。

お富は、源冶店(げんやだな=江戸日本橋)に住んでいた。枝ぶりのいい松の木が頭をのぞかせる、黒塀に囲まれたしゃれた屋敷をあてがわれ、別の男の妾になっていた……。

与三郎とお富が再会を果たす場面は、芝居ではよく知られた名場面である。

こういった男女の仲を描いた芝居を歌謡曲にしたものなので、子どもが大声で「粋な黒塀」だとか「死んだはずだよお富さん」などと歌うことは問題だという声があがった。

子どもたちは意味もわからずに歌っているのだが教育上よろしくないということで、「お富さん」をはじめ歌謡曲そのものを学校で歌うことを禁止する動きが全国に広まった。

昭和20年代生まれの歌手のインタビューなどを読むと、当時小学校で歌謡曲が禁止されたエピソードがたびたび出てくる。

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子どもたちが、意味もわからないまま「お富さん」にひきつけられたことは、音楽というものを考えるうえで重要なことを示していると思う。

人は音楽を聞くとき、「本当の意味」や「本当の制作意図」を必ずしも理解しているわけではない。
現に、外国語の曲を耳にしたとき、歌詞すべてをわかって聞いているわけではない。それにもかかわらず感動することがある。

日本語の曲も同様で、聞き手が「正しく理解」しているとは限らない。以前に知人の結婚式の打ち合わせのとき、新郎新婦の入場曲選びで、花嫁になる女性が森昌子の「越冬つばめ」が好きだと言った。

結婚式にはまずいだろうと、「不倫の歌だよね」と言ったところ、驚いていた。

  --【越冬つばめ】--------------------
  娘盛りを 無駄にするなと
  時雨(しぐれ)の宿で 背を向ける人
  報われないと 知りつつ抱かれ
  飛び立つ鳥を 見送る私
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  作詞:石原信一 作曲:篠原義彦 歌:森昌子

「メロディがきれいな曲」くらいに思っていたのだろう。そういった理解(誤解)で音楽に接しているケースは少なくない。

特に音楽の場合、歌詞だけではなくメロディやリズム、歌唱方法など、言葉では説明しにくい要素も多い。

聞き手は誤解を含め、当人だけの思い込みを含めて、その楽曲を聞いている。ある部分を拡大解釈したり、あるいは過小評価したりして、感動したり、ピンとこないと思ったりしているのである。

楽曲について調べていると、その曲が作られるに至った背景やエピソード、制作秘話などがいくらでも出てくる。

それを知ることで、楽曲や歌手についての理解が深まることはもちろんあるのだけれども、それにとらわれすぎてしまうのは、また違うのではないかと思う。

学術論文を書くならばともかく、ポピュラーミュージックを聞くという行為は、分析作業ではない。

その音楽の魅力(だと当人が思っているもの)のかなりの部分は、じつは聞き手の勝手な解釈や思い入れ、つまり「かん違い」が占めている。

「音楽には(聞き手には)誤解する自由がある」のだと思う。

同時に、作り手には(たいへんだけれども)聞き手の勝手な思いを受けとめる覚悟が必要なのだろう。

お富さん / 春日八郎 (歌詞付き)

歌詞と、ありし日の春日八郎の姿は、こちらでご覧ください。

(by taro 2010/07/14)

Data

春日八郎 かすが はちろう(1924年10月9日〜1991年10月22日)

日本の歌手。
1952年、「赤いランプの終列車」でレコードデビュー。「お富さん」(1954年)、「別れの一本杉」(1955年)、「山の吊橋」(1959年)、「長崎の女(ひと)」(1963年)など、ヒット曲多数。

お富さん

作詞:山崎正
作曲:渡久地政信
1954年(昭和29年)8月、春日八郎のシングルレコードとして発売された。

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春日八郎全曲集2010春日八郎全曲集2010(CD)

  • 赤いランプの終列車
  • お富さん
  • 別れの一本杉
  • ギター流し
  • 雨降る街角 など全18曲収録

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